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虻(あぶ)寸法明細(2尺)

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伝統・古流凧制作の参考にしてください。

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前もって断っておきますが、二十数年間作り続けた結果であり、これが正しいとは限らず、空力学上から見ると異なるかもしれません。又、あえてポイントのみを説明していますがこれは私の作り方がベストとの固定観念を持って頂きたくないとの理由によります。まだ研究の余地は十分にあると思います。あくまでも参考として下さい。

            (「名古屋古流凧」1994.4.1発行誌から 著者 佐藤昌明)

冬に揚げる凧は煤竹を使用し、夏に揚げる凧は風が弱いため檜で軽く作る。 煤竹は青竹のようには素直に割れないため、又、精密に作り上げるために仕上げは鎧にて削る。すべての骨の断面が必ず直角になるように注意を払う(図1)。

 

菱形に削った場合は「曲げ」の作業時に歪みが発生し、正確な凧ができない。 中心を走る「親骨」から見て左右相対するすべての骨は、竹の強度、性質を同じくするため、一本の竹より割り、その隣り合ったもの同士にて作る(図2)。

重量も同一とするために秤にて計量する。

凧の大きさに対する目方も重要である。強風に耐えるためにと骨を太くし、重量を増加させ、上糸目で揚げると、一見揚がったように見えるがそれは凧が浮いただけであり、それ以上の風を受けると左右どちらかヘスライドしてしまう。

 

凧は以下に解説するように贅肉を取り、正確な曲げ加工と最適な反りを合わせ待った骨組みを作ることにより軽くなると同時に強度のあるものとなる。したがって風に対する許容範囲も広くなり揚げ易い高性能な凧となるのである。

 

いちはやくこのことを実践したため、戦後他人より早く復元することができ名古屋の空に揚げることが出来たのである。

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各部の解説) 

 

〇親骨(胴庄骨)

  一般的に反りは深くすると安定は良くなる反面上昇力は落ちるのであまりつけない方がよい。しかし凧の種類によって変化をさせる。頭の面積の大きな凧すなわち「虻」は浅くし小さな面積の「蝉」は深くする。小刻みに振動させながら揚げる「べ力凧」は最も浅くし不安定にした方が妙味がある。 反りの深い所は厚く広く、上下に行くに従って薄く狭く削りとる(図3)。

 

その理由は強風を受けた時、もし強力な柔軟性の無い親骨を使うと、頭の部分は「うなり」が装着されているため補強することとなり風を受けても変化はないが、胴横骨から下の胴周り骨は大きく後ろに反ってしまい風受けが少なくなり上へ抜けなくなる(上昇力が減少)。

 

ところが親骨に前述の加工が施してあると、袖と共に胴周り骨が後ろに反り始めると同時に、胴横から最下部までの親骨も後ろに凹み、いわゆるスプーン形状となる(図4)。

 

従って胴周り骨にかかる風の力を分散させ、結果、胴周り骨の反りを最少限にすることができる。

 

また、このスプーン形状により揚力が増加して凧の「抜け」も良くなるのである。 親骨を基準として他の骨組みが成り立っているため、接触する他のすべての骨は図面通りに正確に曲げを行っておかなければならない。

 

歪んだ骨を無理やり組み込むと親骨が真直ぐに通らなくなる。親骨の最も広い部分は袖骨の組子の部分の巾と同じにする(図5)。

 

これをしない場合、親骨と袖骨をいくら強く縛っても緩みが生じ、強風の時縛点が移動する結果となり凧の振れの原因ともなる。この凧の最も重要な削りは親骨にあると言っても過言でない

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〇胴部骨

 胴周り骨は、中心より左右分割した二本の骨にて作り、親骨の位置にて重ね合わせてつなぎ平麻でまく(図6)。

 

その骨の断面形状を巾広く薄く削ると(長方形)曲げやすいが、強風を受けたとき素直に後ろへは反ってくれず、骨が振れた状態となりやすい。

 

 

従って、断面の縦横比があまり大きくならないよう十分注意することが必要である(図7)。

 

   ● 虻は、親骨(胴庄骨)の長さに対し1.2倍とする。 【 2尺(60㎝)の場合72cm 】

 

   ● 蝉は、親骨(胴庄骨)の長さに対し1.3倍とする。  【 2尺(60㎝)の場合78cm 】

 

                      (虻の倍数が蝉より少ないのは、頭の形の違い)

 

胴横骨は重要で、左右対称の反りになるよう削り、対称の曲げ加工をしなければならない。

 

 

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 うなり台はうなりが効率よく風を受け、よく鳴るように親骨に接する部分に斜に切り込みを入れ頭の

方へ少し傾くように取り付ける(図8)。

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〇(羽骸)

 上羽骸、下羽骸は、先にいくほど狭く薄く削る(図9)。

 

特に下羽骸は上から下まで同一の太さにて仕上げると、風を受けた時に中央部分、すなわち胴周り骨に接するあたりから曲がり、同時に胴周り骨も後ろに曲げる結果、揚力を落としてしまう。

 

又、強風を受けたとき親骨に向かってすぼまる傾向にもあり、これはそれらを防止して主に袖先を後方に反らせ易くする働きをさせるためである。

 

羽骸が親骨に向かってすぼまると凧の安定性が悪くなる。 両羽骸とも親骨上で交差する箇所は組子にて仕上げる(図10)。

〇うなり

 うなりは弓状に作り、重さは凧の重量の二割五分から三割までとする。うなりの重さも性能の良い凧を造るには非常に重要である。 削り方は、中心を一番厚くし、両端へ向かって薄くする。これにより、乱気流の時に凧の安定性と「鳴き」を良くすることができる。重さの限定された中で少しでも良い音色を生み出すために竹より軽い「木」を貼り合わせ、竹だけよりも反発力の強い弓を作る(図11)。

 

● うなりの長さは虻・蝉とも胴周り骨の長さを決める場合と同じく、親骨(胴庄骨)に対するそれぞれの倍率の長さとおなじ。

〇曲げ

 曲げは火を使って行う。火力は強火にして油が出たところで一気に曲げる。弱火で行うと乾燥の方が激しく、曲がりきらないうちに折れてしまう。

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〇笄 (コウガイ)

 強風時に組子の補強と、必要以上の骨組の反りを押さえる役割を合せ持つ。 形状は自由で、これによって作者の個性を表現する(図12

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〇紙

 基本的な「虻」の胴下は、紺又は茶褐色の無地和紙を用いる。頭部には白い和紙に墨で表裏から図柄を書き、「いかり」と「鍋かぶり」(図13の二種類がある。

 

 

「蝉」には白の和紙に主に「水引きぼかし」の技法で柄を入れる。このぼかしは、先に紙に水を引いておき、後からそれに墨を乗せると自然に墨が惨み出していくことを利用する方法である(図14)。

 

大正頃の「蝉」は胴下部のぼかし線数が多いものが見受けられる。ぼかしは「蝉凧」にとって生命であり、乱れたそれは大きなマイナス点とならざるを得ない。

 

このため一本一本表の墨が乾かない内に裏を仕上げていく。

 

袖には主に朱や赤色の和紙を使用し、裏面には金又は銀の箔片をちりばめる。

 

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〇貼り

 最初に胴の反りの深い所から下の部分、胴周り骨だけに糊を付け(親骨には糊は付けない)骨の内側一センチメートルぐらいの所を指で押さえながら少し紙をたるませるように貼る。

 

この時、紙を骨に巻き込まない。これをしないと陽射しの強い日に紙が縮み、骨組がひっぱられて凧が挨じれてしまうことがある。小凧には特に注意が必要である。

 

上部は骨組が半立体になっているため平面の紙のままでは貼ることができず、最上部より親骨に沿って反りの一番深くなっているあたりまで切り込みを入れ、骨組に合うように重ね合わせて貼り付ける。余分は切り落とす(図15)。

 

上部も下部同様骨の最外周のみ糊を付け貼る。 袖は左右同じ深さになるように貼り、その取り付け角度は、袖の先端から付根の方を水平に見て胴周り骨に対して直角より少し頭の方に向くようにする(図16)。

 

これは凧が楊ったとき、袖の裏側に風が当たるとそれが抵抗になり、凧の上昇力を悪くするからである。

 

深さは胴より出た下羽骸の長さの半分が基準である。袖の深さを浅くするほど上昇力は増すがその反面安定度は悪くなる。深くすればその逆となる。べ力凧はそれを極度に浅くし、種類によっては袖後端を塞いだものもある。

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〇飾り

 糸目房(図17)、紙の補強を兼ねた座布団、袖に振った金、又は銀箔等、凧の重量を少しでも軽くするのが重要であるから必要最少限に止め、その中で美しさを出すように心掛ける。このため、骨と骨との縛り糸でさえも二回巻きとして必要以上には巻くことをしない。

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